伝説の多い正宗

日本刀と言われたとき、あまり詳しくない人でも「正宗」の名が出る人は少なくないと思います。この正宗は、「相州(そうしゅう)五郎正宗」という名刀工の名であり、非常に有名な刀工のうちの一人です。しかし有名ではありましたが、古来より伝説などが入り混じっていて、その実態はよく分かっていないという状態でもあります。例えば、あるものには「生没年不詳」とされていますが、別のものには「文永元年、相州鎌倉今小路に生まれた」と記してあります。とにかく情報が多い分、伝説も多いと言われている刀工です。ある説には、藤六行光(とうろくゆきみつ)が京都で修行中に生まれた子供とされており、鎌倉まで行って親戚を訪ねた、非道であった義母に仕え、義母が斬られそうになった時には身を挺してかばった、そのため背を割られたが、その後に初めて鍛えた名刀を「背割正宗」とする…など、エピソードは名刀工にふさわしいものばかりで、広く言い伝えられています。他にも有名な伝説のひとつとして、次のような話が言い伝えられています。正宗と村正の刀を、川の流れに対して上流に向けて立てておきました。そこに流れてきた木の葉が、村正の刀に当たったときには、葉が真っ二つになり二枚になって流れたそうです。一方で正宗の刀の方は、木の葉の方から避けていき、刃に触れることなく流れていきました。村正がひそかに得意になっていると、正宗が、「刀は斬るだけが能ではなく、斬られる方から遠ざけるのが名刀である」と説明したそうです。そもそも、この二人の刀工は同じ時代の人間ではないので明らかな作り話ではありますが、このような伝説が語り継がれるほどの優れた名工であったことが分かります。

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